Members

教員・学生・スタッフの紹介

網代 将彦(Ajiro, Masahiko)

 

(2016.5.1~2023.3.31) 

 

 

pre-mRNAスプライシングは真核生物において遺伝子発現の多様性を生む基本的なメカニズムですが、その制御の破綻は様々な疾患の原因にもなります。私のグループでは、疾患や生理機能と関連したpre-mRNAスプライシング制御と、低分子化合物・核酸薬を用いた治療介入の可能性について主に以下の三点を解析しています。

 

 

(1) 遺伝性疾患におけるスプライシング異常の解析

遺伝性疾患の関連変異として知られる変異の約1割は正常なpre-mRNAスプライシングのパターンを破綻させるスプライシング変異です。さらに、インフォマティクス解析からミスセンス変異や挿入・欠失変異の一部もスプライシングに影響を与えることが指摘されており、スプライシングに影響を与える変異は全体の30%以上に上るとも試算されます(Manning K.S. and Cooper T.A. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2017)。pre-mRNAスプライシングは多くの補助因子による制御を受けますが、私はそのような因子の一つ serine/arginine-rich splicing factor (SRSF) についてこれまで解析するとともに(Ajiro M. et al. Nucleic Acids Res. 2016、他)、形態形成機構学教室・萩原正敏教授と共同でスプライシング標的化合物によるSRSF等の制御から病原性スプライシング異常の修正と機能回復が可能であることを、家族性自律神経失調症(Ajiro M. et al. Nat. Commun. 2021)、嚢胞性線維症(Shibata S. et al. Cell Chem. Biol. 2020)、NEMO異常症(Boisson B. et al. J. Clin. Invest. 2019)等の疾患モデルにおいて示しました(図1)。

 

 

 

 

(2) 癌免疫応答におけるスプライスネオ抗原の解析

人の体内では変異原の作用やDNA複製エラーにより常時癌細胞が発生し、その数は一日に5,000細胞程度とも推計されています。癌免疫応答はそれら癌細胞の排除に必須の防御機構であり、癌細胞表面で提示される癌特異的抗原によって「非自己」として認識を受け除去されます。癌細胞が免疫応答を逃れる機構の一つはprogrammed death-ligand 1 (PD-L1)の発現など免疫チェックポイント機構の利用であり、免疫チェックポイント阻害剤(ICI; Immune Checkpoint Inhibitor)による癌免疫応答の賦活化は癌治療に革新をもたらしました。ネオ抗原はミスセンス変異や転座に伴うアミノ酸変化の結果生じる癌特異的抗原ですが、その推計値がICI治療成績と相関するなど、癌免疫におけるその重要性が知られています(Yarchoan M. et al. NEJM 2017)。一方、スプライシング変異や癌特異的なpre-mRNAスプライシング異常に起因するスプライスネオ抗原については、その存在が示されたのはごく最近であり世界的にもまだ解析が始まったばかりです。我々は、スプライシング標的化合物による癌細胞選択的なスプライスネオ抗原の産生と、それによる癌免疫応答の誘導について現在解析を進めています(図2)。

 

 

 

 

(3) 深部イントロン領域におけるバリアント解析

Human Genome Mutation Databaseに収載されている変異情報によると、これまで遺伝病との関連性が認められた約3万種のスプライシング変異の内、深部イントロン領域に位置する変異情報は約300種類と非常に少数です。これは、今まで深部イントロン領域が解析されてこなかったことを反映しており、その主な理由は深部イントロン領域におけるゲノム配列のバリアントについてpre-mRNAスプライシングの異常等の機能予測が極めて困難であったためです。しかし近年、米イルミナ社のグループが構築した深層学習(人工知能)に基づくプログラム、SpliceAIによりpre-mRNAスプライシング異常の予測精度は実用的な水準に向上してきました(Jaganathan K. et al. Cell 2019)。私たちは、深部イントロン領域のバリアント解析に向けてこの技術を応用した評価を進めています。また、その手法を全ゲノム配列情報に適用することで新たな疾患原因変異情報が得られつつあります。

 

現在、支援講座である形態形成機構学教室(研究室ホームページにおいて大学院生・学部学生とグループで研究に取組んでいます。見学等も可能ですので、興味のある方はご連絡ください。

 

 

 

(略歴)

2005年3月  東北大学工学部 化学・バイオ工学科 卒業

2007年3月  東北大学大学院 生命科学研究科(修士)

2010年3月  東京大学大学院 新領域創成科学研究科(博士)

 

2010年5月~2016年4月

米国立がん研究所/衛生研究所(NIH)研究員(Visiting Fellow)

2012年3月~2014年2月

日本学術振興会 海外特別研究員(併任)

2016年5月~2021年12月

京都大学大学院医学研究科 創薬医学講座 特定助教

2022年1月~(現在)

京都大学大学院医学研究科 創薬医学講座 特定講師

 

 

発表論文一覧NCBI My Bibliographyへのリンク

 

連絡先

〒606-8501  京都市左京区吉田近衛町医学部C棟3階

   形態形成機構学教室

TEL: 075-753-4341
EMAIL: ajiro.masahiko.6e(at)kyoto-u.ac.jp

SUPPORTED BY

Copyright 2016 ©Department of Drug Discovery Medicine. All Rights Reserved.